「さすらいのひのたまボーイ」絵本ラフ
あるひ、おばけの森に、変わったおばけがやってきました。それは、口笛とともにやってきました。
「アッ! 火の玉だ!」
「本当だ。口笛を吹く、火の玉なんだもん。」
そこで、おばけの森のみんなは、この口笛を吹く、火の玉をかんげいするため、すぐに、お茶会の じゅんびをはじめました。
まじょっこサーシャ
「ごきげんよう、火の玉さん。おばけの森にようこそ。」
ひのたま
「おっと、おじょうちゃん。それいじょう近づいちゃダメだ。ヤケドするぜ。」
そういうと、火の玉は、そっと、リンゴをつかみとりました。すると、あっというまに、おいしいやきリンゴのできあがりです。
ひのたま
「さぁ、おたべ。ほっぺた、おちちまうぜ。」
火の玉の名前は、アイザックといいました。アイザックは、世界中を旅する、さすらいの火の玉ボーイだったのです。
アイザックは、花の国でかわいらしい妖精さんたちに会ったことや、巨大な火山の中で、おそろしいドラゴンとたたかったことなど、いろいろな話をきかせてくれました。
みんな、アイザックをかこんで、気分は、すっかりキャンプファイヤーです。しかし、そんな楽しい時間も、あっというまに、すぎさっていきました。
さすらいのアイザック
「さ。オレは、もう、いくとしようか。」
まじょっこサーシャ
「え、もういっちゃうの? もっと、いろいろなお話、聞きたいのに。」
さすらいのアイザック
「フッ。オレは、さすらいのひのたまボーイ。おなじところには、長くいれないのさ。それじゃ、アディオス!。」
そして、アイザックは、また、口笛とともに、さっていったのでした。
まじょっこサーシャ
「アイザックさん、かっこいい。」
ドラキュラ・イワン
「フン。キザなやつ。」
さて、ひとりになったアイザックは、ちょっと、ねむくなってしまいました。ひさしぶりに誰かと話しこんだので、興奮して、つかれてしまったのです。
さすらいのアイザック
「フッ。オレとしたことが、なさけない。しかたない。ちょっとそこいらで、ひとねむりしていくとするか。」
そこで、アイザックは、体の炎がもえうつらないように、しんちょうに場所をえらんで、洞くつの中でねむることにしました。
ところが、ところがです。たいへんなことになってしまいました。アイザックは、とっても、ねぞうがわるかったのです。
ねむりこんだアイザックは、ごろごろ、ごろごろ、ころがって、ごろん、ごろごろ、ごろんごろん。そして、外の草むらに、どってん、ばったん。すると、体の炎がもえうつり、めらめら、木がもえだしました。そこから、ごおごお、火がもえうつり、あっというまに、火事です、火事です。おばけの森が、大火事です。
それをいちはやく、吸血鬼の王子・イワンの家来のコウモリたちがみつけました。
コウモリ
「たいへんです! イワンさま! 火事です! おばけの森がもえてます!」
ドラキュラ・イワン
「なんだって!」
すぐさま、イワンはとびだしていきました。そして、森のようすを見るや、大声でさけびました。
ドラキュラ・イワン
「ものどもぉ、集まれぇ! 雲だ! ありったけの雲を集めてくるんだ! 大雨をふらすぞぉ!」
イワンとコウモリたちは、空をかけぬけ、雲を集めました。それにつづいて、空をとべるおばけたちも、雲を集めてきました。そうして、みるみるうちに、大きな雨雲が、もくもく、もくもく、できあがっていきました。
ドラキュラ・イワン
「まだまだぁ! もっと、もっとだぁ!」
やがて、集めた雨雲から、ぽつぽつ、雨がふりだしました。そして、雨は、ざあざあ、つよくなって、めらめらもえる森の炎を、少しづつ、少しづつ、消していったのでした。
ドラキュラ・イワン
「ふぅ。これで、もう、だいじょうぶ。」
火事がおさまるころには、みんな、すっかり、へとへとになってしまいました。
すると、そこへ、アイザックが、もうしわけなさそうにやってきました。
さすらいのアイザック
「すまない、オレのせいで・・・」
ドラキュラ・イワン
「まったくだ! どうしてくれるのさ! 森がまるこげじゃないか! おまえみたいな火の玉に、いつまでもいられたんじゃ、迷惑だ。さっさと、この森からでていってくれ!」
すると、アイザックは、その目から、おおつぶの炎をだして、なきだしてしまいました。アイザックは、本当は、さすらいの旅なんかしたいわけではなかったのです。体の炎のせいで、おなじところには、長くいられなかっただけだったのでした。
さすらいのアイザック
「ごめんよぅ。ごめんよぅ。オレのせいで・・・」
まじょっこサーシャ
「かわいそうなアイザックさん・・・そうだ! いいこと思いついた。わたし、なんとかしてみる。」
まじょっこサーシャは、まほうの本を開きました。
まじょっこサーシャ
「メケルヤ メケルヤ ルーペンドット チーパッパ! おねがい、はがねのまじんさん、力をかして!」
すると、まほうの本の中から、とってもたよりになりそうな、鋼の魔人がでてきました。
まじょっこサーシャ
「おねがい、はがねのまじんさん。この火の玉ボーイさんに、ぴったりの、もえない、すてきな おようふくを作ってほしいの。」
はがねのまじん
「ホッホゥ! ほいきた。おやすいごようじゃとも!」
すると、鋼の魔人は、トッテン、カッタン、あっというまに、アイザックにぴったりの、鋼鉄のヨロイを作ってくれたのでした。
「おお!? これは?」
まじょっこサーシャ
「さぁ、アイザックさん。これで、もう、火事の心配はしなくてもだいじょうぶ。ねぇ、ここで、わたしたちといっしょにくらしましょうよ。」
さすらいのアイザック
「え?・・・いっしょにだって? いいのかい、こんなオレと?」
すると、イワンがいいました。
ドラキュラ・イワン
「フン、いまさら、何いってるんだ。・・・ぼくらは、もう、友だちじゃないか。」
さすらいのアイザック
「友だち、だって? 本当に?」
ドラキュラ・イワン
「しつこいやつだなぁ。ウソなんかいうもんか。さぁ、そうと決まったからには、パーティーだ! 題して、『ようこそアイザック、みんな、友だち、歓迎パーティー』だ!」
イワンは、友情のあかしとして、黄色のマフラーをプレゼントしました。アイザックは、すっかり、むねがいっぱいになってしまいました。はじめての住む場所に、はじめての友だち。さぁ、これからアイザックをまっているものは、はじめてのことばかりです。
さすらいのアイザック
「みんな、ありがとう。本当にありがとう。さぁ、友よ、あたらしい夜に、かんぱい!」
こうして、おばけの森に、あたらしいなかまが、ひとり、ふえたのでした。
(おしまい)
【おまけページ】