「はらぺこイワンおおあばれ」絵本ラフ
おばけの森の王子イワンは、血を吸う、こわい吸血鬼。血がなによりのごちそうです。けれど、血を吸うと、あんまり森のみんながこわがるものだから、イワンは、真っ赤な血のかわりに、真っ赤なトマトジュースを飲んで、ずっと、ずうっと、がまんしてきました。ところが、ある日・・・
ドラキュラ・イワン
「ええい、ばかばかしい! ぼくは、ほこり高きドラキュラだぞ! どうして、毎日、毎日、トマトジュースばっかり飲んでなくちゃならないんだ! もう、トマトなんて、だぁいっきらいだぁ!」
イワンは、とうとう、がまんしきれなくなって、城の外にとびだしてしまったのです。
さあ、たいへんです。おばけの森は、おおさわぎ。
イワンは、そのするどい歯で、オオカミおとこをがぶり。「いたい!」
ミイラおとこだって がぶり。「ひぇぇ!」
ハサミおとこだって がぶり。「ギャァァ!」
こうしてみんな、血をすわれて、すっかり元気がなくなってしまいました。
オオカミおとこ
「うぇぇん、いたいよう!」
ミイラおとこ
「いやはや。このままでは、みな、ひからびて、ミイラになってしまいますぞぉ。わがはいは、もう、ミイラでありますが・・・」
おとぼけガイコツ
「そうだ!こんなときは、あの子にそうだんしよう。ね、そうしよう。」
そこで、みんなは、森で一番のまほう使い、まじょっこサーシャのところに助けをもとめにいきました。
まじょっこサーシャ
「まぁ! みんな、どうしたの?!」
ハサミおとこ
「たいへんだズラ! イワンがあばれだしたんだズラ!」
キョンシーむすめ
「おそろしい吸血鬼が、真っ赤な血をもとめて、がぶり、がぶりって! こわいアル、たすけてぇ!」
まじょっこサーシャ
「それはいけない。でも、わたしに何ができるかしら?」
くろねこミーシャ
「ミャア。」
まじょっこサーシャ
「うん、そうね、ミーシャ。とにかく、まずはイワンと会ってみないと。」
サーシャは、「メケルヤ」とじゅもんをとなえると、イワンの城めざして、飛んでいきました。
ところが、サーシャの行く手を、じゃましにきたものがいます。イワンの家来のコウモリたちです。
サーシャ
「ちょっと。そこをどいてちょうだい。わたしは、イワンに話があるの。」
コウモリ
「おっと、おじょうちゃん。そうはいくか。おれたちゃ、もう、トマトジュースには、うんざりなのさ。」
サーシャ
「そんなぁ。トマトはおいしいのに。」
コウモリ
「ええい、つべこべいうな。トマトはいらぬ。血こそ命なのだ。さぁ、ものども、あんなほうき、こわしてしまうぞ!」
サーシャ
「きゃぁ! やめて!」
そのときです
「ンンギャァァァ!」
と、くろねこのミーシャが、ここぞとばかり、うなり声をあげました。コウモリたちは、びっくり、ぎょうてん。みんな、あっというまに、逃げていってしまいました。
コウモリ
「イワンさま、イワンさま、たいへんです! ここへ、おそろしいまじょが、とんでもないバケモノをしたがえて、せまってきています!」
ドラキュラ・イワン
「何? おそろしいまじょに、とんでもないバケモノだって? はて、そんなやつ、この森にいたっけかなぁ・・・」
そこへ、サーシャがやってきました。
サーシャ
「あ、いたわね、イワン! 聞いたわよ! 森でおおあばれをしたんですって?」
イワン
「これは、これは。おじょうさん。誰かと思えば、サーシャじゃないか。フフン、いいかい。ぼくは、ほこり高きドラキュラだぞ。吸血鬼が血をすって、何がわるい?」
イワンは、そういって、にやりと笑いました。ところが・・・
サーシャ
「こら! わるいに決まってるでしょ! がぶりなんてしたら、いたい、いたいなの!」
イワン
「ウゥ! そりゃ、そうだけど。でも、吸血鬼に吸われるなんて、すばらしいことじゃないか。みんな本当は、よろこんでるはずさ。」
サーシャ
「こら! そんなわけないでしょ。がぶりなんてする子は、こわい、こわいなの!」
イワン
「うう・・・それでも、それでも・・・」
イワン「ぼくは、ドラキュラだぞ!トマトじゃない! 血を吸うからこそ、吸血鬼なんだぁ!」
イワンはおもわず、大声をあげました。すると、
イワン「あ、そうだ。そこまでいうなら、サーシャ・・・きみが、
みんなのかわりに、血を吸わせてくれればいいんだよ。」
サーシャ「え、なんですって?!」
イワン「そうだ。そうしよう・・・ね、サーシャ。結婚しよう!」
サーシャ「ちょっと、何いいだすのよ!?」
イワン「そうだよ。そうすれば、みんなは、いたい思いをしなくなるし、ぼくとサーシャは幸せになれる。あぁ、なんて、ぼくは頭がいいんだろう。さぁ、ぼくのかわいい花嫁さん。こっちへおいで!」
サーシャ
「もう、勝手なこといわないで!」
サーシャは、まほうの本を開きました。
サーシャ
「メケルヤ、メケルヤ、ルーペンドット、チーパッパ!おねがい、トマトさん。力をかして!」
すると、まほうの本の中から、真っ赤な顔のトマトさんがでてきたのです。
イワン
「うわぁ! トマトだぁ! トマトなんて、もう、うんざり!」
トマトさん
「あら、しつれいね。わたしのトマトは、トマトでも、トマトにあった環境のもと、手間ひまかけて作った、おいしいトマトなんだから。」
そういうとトマトさんは、イワンの口にトマトをほうりこみました。すると、
イワン
「うわぁ、おいしい! なんだ、トマトって、こんなにおいしかったの!?」
トマトさん
「そのうえ、えいようまんてんよ。」
イワンは、すっかり、おどろいてしまいました。なにしろ、イワンは吸血鬼だったので、血のほかに、おいしくて、えいようがあるものなんて、考えたこともなかったのです。
イワン
「と、すると・・・今まで血のかわりに飲んでただけのトマトジュースだって・・・」
トマトさん
「もちろん、おいしかったのよ。あなたが気づかなかっただけでね、ドラキュラさん。」
イワン
「ふぅむ・・・なるほどなぁ。」
イワンは、深いためいきをつくと、しばらく、だまりこんでしまいました。
そして、サーシャの顔を、ちらっとみると、はずかしそうに、わらいました。
イワン
「よぉし、そうとわかったからには、パーティーだ。パーティーをしよう。題して、『血を吸って、ごめんんさい。みんな、ゆるして、トマトパーティー』だ!」
イワンは、森のみんなを集めて、トマトパーティーを開きました。もう、こわい吸血鬼はいません。オオカミおとこも、ミイラおとこも、今はにっこり。みんな、イワンをゆるしてあげました。
サーシャ
「よかったね、イワン。ありがとう。トマトさん。」
イワン
「・・・でも、サーシャ。ときどきは、サーシャの血も吸わせておくれよ。」
サーシャ
「それは、だめよ。」
イワン
「けち。・・・じゃあ、せめて、結婚はしようよ。」
サーシャ
「ううんと・・・まぁ、考えておいてあげる、ね。」
(おしまい)
【おまけページ】